目が覚める。 「……ん〜……」 いつも通りの時間の起床。 まだ空は薄暗い。 今日は朝霧が酷いのも相まって暗く感じる。 「こんなに霧が強いのは久しぶりね」 少し外を歩いてみようか。 いつもの服に着替え、ストールを羽織って外に出る。 「さむ…」 息を吐いてみるも白くはならず。 まだ寝起きだからだろう。 霧の冷たさを懐かしいとも、新鮮とも感じながら湖畔を歩く。 まだ太陽は山を越えてこないようだ。 「やぁ」 広場につくなり、声を掛けられる。 「……なんでこんなところにいるんですか」 「そういうあんたこそどうして来たのよ」 「霧が強かったから、ですかね」 「そう、私もよ」 彼女が尻をずらす。 変に断る理由も無いので、私もその岩に腰を掛ける。 「珈琲ですけど、飲みます?」 「いい、帰ったら寝るし」 「じゃあミルクにしますね」 「本当に用意がいいわね…」 飲もうかと思って魔法瓶に用意しておいただけ。 多めに持ってきたのは温めた量が多かったから。 余っても後で飲めるし。 とつとつとミルクを注いでいく。 湯気が立つも、霧と同化しすぐに消えていく。 手渡すと、何も言わずに飲み始める。 質素な鈍色の蓋に口を付ける彼女はなかなか珍しい。 「たまにはこういうのも悪くないわね、野趣って言うのかしら」 「普段は気取ったカップで丁寧に飲んでますからね」 「そう?やっぱり気取ってるように見える?」 「ええ、まあ」 「私としてはそんなつもりはないのだけれどね」 こくこくとミルクを飲む。 私もカフェオレを蓋の中で作り、ちびちびと飲む。 「吸血鬼って、どんなイメージかしら」 「はい?」 「私が生まれた時はね  立ち振舞いは紳士淑女でありながら、しかしそれは力を持つ者の悠然であるってイメージが強かったの」 「そうですね、それが大体のイメージかと思います」 「だから、私はそれを目指した」 「…………」 「テーブルマナー、紅茶の良し悪し、ワインの飲み方…色々と勉強したのよ。  カップ選びのセンスもティータイムもその一貫」 「……失礼なことを申し上げました」 「いいのよ、気にしているわけでもないわ」 言い終えると、岩の上に立ち上がる。 腰に手を当てて、煽るようにミルクを飲み干す。 まるで風呂上がりの子供のように。 「ぷはーっ!」 白い髭をつけた彼女は、見た目相応の少女のよう。 こちらを見下ろし、にやりと笑みを浮かべて言う。 「なに微笑んでるのよ、まだそんな歳でもないでしょ?」 「え?ああ」 いつの間にか頬がゆるんでしまっていた。 しかしそれを直そうとも思わない。 「微笑ましいものを見ましたので」 「そう、なら仕方ないわね」 トン、と岩の上から飛び降りる。 そろそろ陽も昇り始めた。 「帰るわよ、朝食を作って頂戴」 普段より少し柔らかい口調。 少しの嬉しさを感じながら、こう返す。 「かしこまりました、お嬢様」