「どうですか?プロデューサーさん。  私、とうとうシンデレラガールに選ばれたんですよ?  鼻が高いでしょう、そうでしょう。  なんたってプロデューサーさんがスカウトしてくれたんですから。  ……あの頃は、今考えると恥ずかしいくらいに自信過剰でしたけど。  そんな私を育ててくれたのがプロデューサーさんなんですよ。  ほら、名実共に一番かわいくなった私を見てくださいよ。  あの街中から私を見つけて選んでくれたその目で。  ねぇ……。  目を開いてくださいよ、プロデューサーさん……」 「……………幸子ちゃん、そろそろ時間だよ」 「……はい、行きましょう」 「その……僕は先輩みたいに優秀じゃないから……」 「大丈夫ですよ、スケジュール管理と体調管理は自分でできるように仕込まれたので」 「ははは、本当に先輩には敵わないなぁ。  今日はグラビアが1つと、インタビューが1つだったね。  収録がないからいつもより早く終わりそう」 「じゃあお仕事が終わった後に、歌のレッスンを入れてもらえませんか?」 「んー…明日は午後からの仕事だし、明日の午前中にする?」 「いえ、明日の午前中はまたここに来ます」 「……そう、か。  わかった、レッスン場の方に連絡しておくね」 「よろしくお願いします」 ───午後9時過ぎ、レッスン場 「よし、今日のレッスンはここまでだ」 「ありがとうございました、麗さん」 「その、なんだ、今の君に言っても無駄だと思うが言っておく」 「なんでしょう?」 「無茶に伸びようとするな、伸び代は無限じゃないんだ」 「……いえ、そんなことはありませんよ」 「そうだな、確かにそうだ、これまでの君はどこまでも伸びる気がしていた。  だが今の君には、私からでも限界が見えてしまっている」 「……………」 「気持ちはわかる、と言うのは気休めにもならないし  正直なところ君がプロデューサー君へどういう気持ちを抱いていたのか、私にはわからない。  ただ、私もそれなりに長い付き合いだからな。  プロデューサー君が君の様々な部分のストッパーになっていたという事は理解している。  君がそれを一番良くわかっているはずだろう?  それでも君は自分の考えるまま、自分の伸び代を喰い尽くすように成長しようとしている」 「ええ、そうですよ。  麗さんの言う通りです、私は今焦って伸びようとしているんですよ」 「何故だ?シンデレラガールに選ばれてアイドルのNo.1になった君が何を焦る必要がある?」 「私は、この方法でしか自分を伸ばす方法を知らないんです。    ………実績を残して、シンデレラガール総選挙のステージに上がれる事になって。  まだ、プロデューサーさんは私がシンデレラガールに選ばれた事を知らないんですよ?  だったらプロデューサーさんが目覚めるまで、私はシンデレラガールで居続けるしかないじゃないですか!  だから私は伸びなきゃいけないんです、自分を食い潰してでも!!」 「……だが、彼なら」 「わかってますよ、わかってますよ!  プロデューサーさんならこんな無茶、絶対に許さないでしょうね!!  でも今ここにプロデューサーさんは居ないんですよ!!  せっかくシンデレラガールに選ばれたこのボクの傍に居ないんですよ!!  だったらボクは、シンデレラガールで居続けるしかないじゃないですか!!  シンデレラガールであるボクを続ける為に!シンデレラガールになったボクをプロデューサーさんに認めてもらいたいから!!」 ギュウ 「!?」 「全く、こんな娘を放っておいて何を寝腐っているんだろうな、プロデューサー君は」 「れ、麗さん!?」 「すまないが、生憎と私はレッスン専門でね。  君の気持ちは受け止められないから、身体を抱き止める事にした」 「あ、あのっ、私っ」 「辛い時は、私を頼ってもいい。  後輩君に言って、一時休業もできるだろう。  と言っても、君は聞かないんだろうがな」 「……………」 スッ 「ん?どうした?泣かないのか?」 「ふふ、麗さんに弱みを握られるなんてポカはしませんよ。  ……ありがとうございます、少しだけ胸のつかえが取れました」 「それはなによりだ、が」 「私は休業したりしません。  勿論シンデレラガールの座を誰かに譲ったりもしません。  だから、これからもよろしくお願いします」 「………そうだな、これからもビシビシ行くから覚悟しておけよ!」 「頼もしい限りですね。  じゃあ今日はもう帰ります、お疲れ様でした」 「お疲れ様、ゆっくり休むんだぞ」 (早く戻ってこいプロデューサー君。  君というピースが嵌ってないと、彼女は不完成な姿を皆に晒す羽目になってしまうぞ) 翌日 帰りの車の中 「幸子ちゃん、すごく言いづらい事を言わないといけないんだ」 「急になんですか?少し休んでおきたいんですけど」 「先輩が、転院することに決まった」 「なっ、それってどういうことですか!?」 「落ち着いて聞いて欲しい、悪い知らせではないんだ」 「じゃあ、プロデューサーさんは回復してきているんですね!?」 「……そうとも言い切れないんだ」 「えっ?」 「冷静に聞いてね、僕の聞いた話と事実をありのままに伝えるから」 「……わかりました、話して下さい」 「今日、先輩の脳波に反応があったらしいんだ。  でもそれは夢を見ているような状態で、意識が戻っているわけじゃないらしい。  いい方向に向かっているという解釈をしてもいいのだけれど、その反応も途切れ途切れでね。  だからより専門的な設備と先生のいる病院へ転院して、経過を見ようという事なんだ。  言いづらいのはこの先の話。  先輩が転院する病院は隣県にあるから、事務所から通うのは時間が厳しくなる。  それに幸子ちゃんはシンデレラガールとして多方面から声が掛かってるし、これからは各地を飛び回る事になる。  先輩のお見舞いにいけるのは、今週の木曜日の午前中までかな。  スケジュールを考えると、水曜日がとりあえず最後だね。  以後行けなくなる、ってことはないだろうけど……」 「…そ、う、です、か」 「疲れてるところに気の重くなる話をしてごめんね。  それでもできるだけ早く伝えておかないといけない話だから、ね」 「ふふ…ふふふ…」 「ど、どうしたの幸子ちゃん?」 「夢を見ながら寝ているんですか?  プロデューサーさんてば、私のことを足しげく通わせておいて……。  酷い人ですね全く、一体どんな夢を見ているんでしょうかね」 「幸子ちゃん……」 「わかりました、水曜日を最後に私は暫くプロデューサーさんの顔を見れなくなるんですね」 「そうなるね。  僕は臨時で幸子ちゃんのプロデュースさせてもらってるだけだし、ついていけないロケとかも多いから  先輩のお見舞いは定期的に行って様子を逐一報告させてもらうよ」 「お願いします、じゃあ少し休ませてもらいますね……」 「うん、着いたら起こすからゆっくり休んで」 (………水曜日が、一つの区切りになるのかな。  プロデューサーさんが、いい夢を見ていますように……) 水曜日 Pの病室 「プロデューサーさん、おはようございます。  明日、転院するらしいですね。  一方私はオファーが沢山転がり込んできて選別さえしている状態です。  貴方がプロデュースしていた頃とは随分と差がついてしまいましたぁ、悔しいでしょうねぇ。  …………私、これからシンデレラガールとして活動するんですよ?  一番大事な時に、私をプロデュースしてくれる方が居ないってどういうことですか。  いつも同じ表情で、いつもこのベッドで眠っていて。  最近は夢まで見出したという話ですね、呆れてものも言えません。  一体どんな夢を見ているんですかね?  私の授賞式より感動的な夢ですか?私のアンコールLIVEより熱い夢ですか?  それとも仕事をしている夢でも見ているんですか?  プロデューサーさんならそれが一番有り得そうですね」 「ん………」 「っ!?  プロデューサーさん!?」ガタッ 「……………」 「あっ……」 (覗き込んだせいで顔が近い……。  こんなに近くでプロデューサーさんの顔を見るのは初めてかもしれない) 「…なんだ、全然暖かいじゃないですか。  普通に寝てるだけみたいですね、こうして見ると」 ポロッ 「あ、あれ?  おかしいですね、勝手に涙が」 ポロッ ポロポロッ 「えっ、えっ?  やだ、止まらないっ」 (ただ頬に手を添えただけなのに、その頬が暖かかっただけなのに) 「…っ、うっ、うっ…。  起きて下さいよ……プロデューサーさぁん………」